2024年5月30日更新
三桜工業は2021年度に、2030年度に向けた「中期経営方針」を策定いたしましたが、今般その内容を見直し、新たに「中期経営方針」を改訂いたしました。
われわれの現業に関わる自動車の世界生産台数は、2030年に年間約1億台を展望する等、引き続き成長が見込まれる市場です。インド・中南米・アジアがその成長を牽引していきます。
斯様な中、三桜工業は寡占で新規参入者も少ない自動車配管市場で、重要保安部品を参入障壁に世界有数のシェアを誇っており、足元、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車等、内燃機関を搭載するクルマが見直される中、三桜工業独自の戦略「サンオー・ラストマン・スタンディング戦略」でグローバルNo.1シェアを目指します。
自動車産業においては、一度受注した製品に関しては車体やエンジンのモデルライフの期間中、継続してトップラインの売上が見込める、というメリットがあります。継続して500兆円以上の規模が見込まれるグローバル自動車市場において、しっかりと優位性を維持し、現行の自動車部品事業をキャッシュカウ化していくことが、2030年を見据えた中期経営方針の主軸となります。
ただし、近年は各国において、自動車の動力源のニーズが多様化しています。ガソリンエンジン車やハイブリッド車など従来の内燃機関搭載車に加え、モーター駆動のバッテリーEVやバイオ燃料車、合成燃料などの石油代替燃料を用いた車も開発されております。
世界各国の政策や消費者の嗜好が異なる以上、自動車の動力源の多様化も今後10年は継続するであろうとわれわれは予測しております。今後起こり得るあらゆる事態に備えておくために、三桜工業におきましては従来のブレーキや燃料の配管はもちろん、バッテリーEVやプラグインハイブリッド向けのサーマルソリューション製品にも積極的に投資し、シェアを拡大していく計画となっております。
自動車市場においてますますシェアを高め、現業のキャッシュカウ化を進めていくのと並行して、自動車以外の市場におけるサーマルソリューション事業やその他新規事業の拡大も、中期経営方針の重要な軸の一つです。
具体的には、データセンター用水冷配管や、インド等グローバルサウス市場における冷蔵庫等の家電用水冷配管、また設備の外販事業等、三桜工業が自動車配管事業で培った技術を新たな市場へ転用する形で、新事業を創出して参ります。
先行き不透明な事業環境下ではありますが、様々なバックグラウンドを持ち、幅広い年齢、性別、国籍で構成される、ダイバーシティに富んだ経営陣が、今後も三桜工業の持続的成長を実現して参ります。
三桜工業は商売の心得を大切にし、製造業には珍しいマーケットインの発想や徹底した顧客志向、多様性を重視するオープンイノベーションの価値観を持つユニークな企業集団です。
特に三桜工業で重要視しているのは、徹底した顧客志向です。競合企業が独自の判断で車輌電動化に大きくシフトする中で、われわれはお客様の困りごとに耳を傾け、多様なニーズに応えるべく、柔軟な製品ポートフォリオや、世界にまたがる生産拠点を維持し続けています。
工場の統廃合など合理化を進める一方で、多くの企業が撤退したイギリスやブラジル市場にも留まり、お客様のおひざ元で製品やサービスを提供し続けています。顧客の視点で考える、地道な活動を続けてきたことにより、現在大きな残存者利益を獲得できる下地が整ってまいりました。
その甲斐あって、世界的なパンデミックが始まってからの4年間で、成長投資のためのキャッシュもしっかり蓄えることができました。新製品、新規事業の投資の手も緩めておらず、今年度からは一段ギアを上げていく方針です。
先行き不透明な事業環境下、いままさに創業時のシリアルアントレプレナーシップに立ち還り、新たな顧客・新たな事業を創出して参ります。
世界の自動車生産台数とパワートレインの構成予測については、バッテリーEVの比率は各国の政策やグローバルサプライチェーンの制約による影響も大きく、この先数年間の予測販売台数にも10%以上の不確実性が織り込まれています。三桜工業では、2030年の新車販売におけるバッテリーEV比率は30%前後であろうと予測しております。
重要なのは、様々な市場予測データを見ましても、これから10年間はバッテリーEV、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車がバランスよく販売され、特定のパワートレインの車が市場を占有するということはない、ということです。
このような多様なモビリティニーズの時代を見通して、三桜工業ではバラエティに富んだ製品ラインアップを取り揃えております。われわれのブレーキ配管は、EV、内燃機関を問わず、すべての車に搭載されます。バッテリーEVに向けても、冷却配管製品を取り揃えており、またハイブリッド車を含む内燃機関自動車の市場シェアが拡大した場合にも備えて、従来の燃料関連製品の開発・生産体制は維持しております。
今般改訂いたしました中期経営方針では、不確実な事業環境下にあっても利益を生み続け、サステナブルに成長し続けられる、レジリエントなマルチポートフォリオの構築を実現させたいと考えています。
自動車部品事業におきましては、為替など不確実な要素もあり、2030年の売上目標をやや保守的に置いていますが、こちらは現実的に達成し得る最低限のラインであり、安定したキャッシュカウとしてしっかり維持して参ります。
一方で、いかなる経営環境下でも安定して利益を出し続けられるように、自動車部品事業偏重からの脱却を図り、新しい成長市場における新事業を創出して参ります。
事業ポートフォリオの多様化については、三桜工業の固有技術や市場における実績を応用して、段階的に発展させて参ります。
三桜工業の優位性としましては、内燃機関自動車でも多くの採用実績のあるサーマルマネジメント技術、高い品質保証能力、世界約20か国に広がる海外での生産能力、生産設備の社内製作能力などが挙げられます。
自動車市場においてはこれらの実績を活かし、EVやハイブリッド自動車のバッテリーやパワーコントロールユニット、インバーターなどの冷却に貢献するサーマルソリューション製品のシェアを拡大して参ります。
新事業ではデータセンター用冷却システムや冷蔵庫用のワイヤーコンデンサー事業、生産ラインの提案と設備販売をパッケージ化した、生産ソリューション事業等を成長領域ととらえ、注力して参ります。
2021年に発表した中期経営方針の最初の3か年は、成長投資はある程度抑制し経営基盤のスリム化、安定化に努めました。その結果、コロナ禍や、半導体問題を含む世界的なサプライチェーン問題を乗り越えて、2023年度には過去最高益も記録することができ、成長の原資をしっかり蓄えることができました。
厳しい経営環境の中で逆に多くの人財が成長し、市場においてはラストマンスタンディング戦略が功を奏し、オンリーワンのサプライヤーとしての認知度を大幅に高めることができました。
今年度からは新たな局面に入ります。2030年度を見据え今年度と来年度は積極的に成長の仕込みの投資を進めて参ります。ROEでは一時的に踊り場を迎えるかもしれませんが、その後の大きな成長に向けて、本業で獲得したキャッシュは優先的に将来投資に振り分けていく計画です。
そのために三桜工業は、2024年度以降の5年間のキャッシュ・アロケーション方針を策定いたしました。
先ほど申し上げました通り、キャッシュ・アロケーション方針の最優先事項は成長投資です。新興国における車輌配管やパワートレイン製品の設備投資、人財への投資、そしてデータセンターの冷却配管や生産ソリューション事業など新事業領域にも、M&Aも含めて、積極的に投資して参ります。
一方で、日ごろから三桜工業を支えてくださっている株主や投資家の皆様への安定的な還元もしっかり行ってまいります。
前述の通り三桜工業では、2030年時点でも、プラグインハイブリッド車などを含むエンジン搭載車輌は、年間6,000万台から7,000万台規模生産されるであろうと見込んでおります。
従いまして、競合企業が内燃機関向けの製品からは撤退していく中、ユーザーやお客様である自動車メーカーが従来の自動車配管製品を必要とされている限り最後まで撤退はしないという、「サンオー・ラストマン・スタンディング戦略」を2020年から掲げております。
既にブラジルの南米やイギリス等、局地的には三桜工業が独占的に供給できる体制が整っており、ライバルが既存市場から撤退、またはバッテリーEV製品へ注力する中、三桜工業は、顧客から求め続けられる限り、既存市場に踏み止まり続ける考えです。
残存者利益を獲得するという戦略によって、2つの大きな成果が生まれてきております。
一つは市場占有率です。
三桜工業が属する自動車配管市場は寡占市場であり、新規参入も限定的です。取り扱う製品のサイズは大きく、輸送するには非効率なことから、顧客である自動車メーカー様の工場の近くに拠点を構えたり、場合によっては、自動車メーカー様の工場の中で加工作業を行い、製品を納入するケースもございます。
現在、お客様である自動車メーカー様から見ると、自社工場に近接して配管製品を納入できるのが三桜工業しかいない、という地域が世界に多く存在します。従って、この1年ほどで、かつては取引量の少なかった欧米系の自動車メーカーやメガサプライヤーなどから、新しいお取引をいただく機会が急増しています。
グローバルシェアNo.1に向けて、三桜工業のグローバル市場占有率は着実に上昇しております。
もう一つは、価格決定権です。
世界各地域でオンリーワンの存在になっているために、その地域特有のインフレや為替などの金融リスク、或いは事業リスクに関して、お客様に一部リスクを引き受けていただき、製品価格に転嫁していただける機会が増えています。三桜工業では中期経営方針において、現業の売上高利益率10%を目標としておりますが、事業の高収益化についても順調に進んでおります。
もうひとつの戦略は、グローバルに展開する生産体制の現地生産機能や生産性の向上です。
残念ながら、いま、世界は分断化しつつあり、その経済圏は、国や地域毎にブロック化しつつあります。
斯様な中、三桜工業は、既に存在するグローバルな現地生産ネットワークへの投資を行うことで、参入障壁のひとつにもなっている製品供給の現地化、近接化、そして生産性を向上して参ります。
主には、成長ポテンシャルが見込まれるインドを含むアジアの能力増強、および米国市場への供給を見据えた中米地域を起点とする生産性の向上、ならびにマザー工場としての日本を中心に投資を行ってまいります。
成長著しいアジアでは、タイやインドを中心に、三桜工業の主力製品である車輌配管製品の能力増強や、インドでは、新事業の有力な柱の一つである冷蔵庫用の水冷ワイヤーコンデンサー事業の強化を行ってまいります。
また、北南米セグメントでは、メキシコ拠点も含めた米国ビジネスの生産性の向上や、アメリカのBig3やメガTier1サプライヤーとの取引拡大に注力して参ります。
さらに、日本では、原価や生産管理、調達データベース等のシステム基盤の高度化や、生成AI導入による自働化、チューブの生産性向上、新事業の創出に力を注いで参る考えです。
サーマル自動車部品は、バッテリーEV車をはじめとする電動車市場に対して、航続距離延長をサポートする観点から、発熱効率の最適化に貢献する部品群です。
サーマル自動車部品は、従来の取引慣行である自動車メーカー様への直接納入のみならず、実質的に製品の仕様決定権を有する、所謂CASE機能を担ってメガサプライヤー化するシステム・モジュールサプライヤーへの供給も狙った“Tier1.5戦略”を遂行して参ります。
ここからは新事業についてご紹介いたします。
ひとつめは、データセンター事業です。
三桜工業は数年前に、ハイパフォーマンスコンピュータの富岳に、製品が採用されました。そこで獲得した高い評価と、実績を基に、足元は、データセンター用の冷却商材の開発や、マーケティング活動に注力しております。
現に、本年1月には、その専業部隊として新事業開発本部を新設し、予算や人財を独立させました。
データセンターの世界市場が今後拡大する中、サーバーの主要な冷却手法である空冷および水冷の別を問わず、自社開発製品に加えて、他社との協業やM&A等のインオーガニックな取り組みも積極的に駆使しながら、事業領域を拡大して参ります。
ふたつめは、生産ソリューション事業です。
三桜工業は自動車配管製品だけでなく、その配管製品を曲げるための加工設備の開発や設計、製作も、これまで自社で行ってまいりました。
その設備や装置の内製ノウハウを基に、自働化ニーズの高まりを受けて市場の拡大が見込まれる、設備の外販にも取り組み、自社グループと外部顧客双方の生産性向上に貢献しながら、幾つかのステップを経て、生産ソリューションの事業化を目指して参ります。
最終的なゴールとしましては、世界の製造業を活性化するために、中小企業の在庫削減や、生産リードタイムの向上に貢献していきたいと考えています。そのファーストステップとして、まずは自社の加工設備や搬送設備の販売を始めております。
新事業の最後は、冷蔵庫向けワイヤーコンデンサー事業です。
これまでも、三桜工業のインド拠点で手掛けてきた事業ではありますが、足元のポテンシャルの高さを踏まえて、これまで以上に注力して参る考えです。
冷蔵庫向けのワイヤーコンデンサー事業は、かつての三桜工業の海外事業でもあり、現地の冷却手法のメインストリームは三桜工業が得意とする水冷であることからも、配管製品の需要はもちろんのこと、その製造設備ニーズも見込まれる有望な事業のひとつと考えております。
今後、バリューチェーンの強化や能力増強投資等を通じて、現地競争力をさらに高め、ひとつのまとまった事業として育てていきたい考えです。
最後は、サステナビリティ経営についてです。
三桜工業は、事業活動による社会・環境への影響を評価し、優先順位を明確化する「マテリアリティ(重要課題)」に、4つの優先項目として、「革新的テクノロジーによる生産性向上」「環境負荷低減に貢献」「地域社会との共創と成長」「働きがいと生きがいの両立」を定めております。
自動車産業を取り巻く大きな環境変化を踏まえて、サステナブルな成長を実現するために、「我々は何者か」「我々は何をもって社会に貢献できるのか」「10年後、20年後にどうあるべきか」という問題意識を持ち、サステナブルな経営に努めてまいります。